マツ、能登の「おすそ分け」文化の恩恵にあずかる。(1)

能登には「おすそ分け」の文化というのがある。いわば「物々交換」みたいなものだが、田んぼで取れたお米、自分の庭になった果物や、畑で取れた作物、現代に至っては、スーパーで買ってきた食材、等々を気軽に「おすそ分け」する。

いずれもいわゆる「商品価値」の高いものではないから、中には見栄えの非常に悪いものであることも少なくない。「おすそ分け」はどこの田舎にもあることだと言われるかもしれないが、能登の場合は「おいしいからもらって!」と、よい意味でのアピールが入るのがユニークなところである。変な謙遜をするよりも、相手の人を「おもてなし」したい、相手の人に喜んでもらいたい、そういう心意気にあふれている。

(なお、小声で言うが、私が食うにも困るようなピンチに陥った時、この「おすそ分け」文化のおかげで餓死せずに済んだ。あの経験は、私に本当の意味での食べ物に対する感謝や有り難さを教えてくれたと感じている。だから、今でも能登の人たちには頭が上がらない。)

実は先週半ばから、数日間、3月末以来久しぶりに能登に滞在した。なつかしい人たちにも大勢再会したが、その中で思わぬ「おすそ分け」をいただいた。それは、奥能登の塩田のすぐ近くに住むTさんからの大量の「干しワカメ」であった。Tさんは近所の方から「おすそ分け」してもらったのだそうだが、大量にあるので食べ切れないうちに色が変わってきてしまって、どうしたものかと思っていたらしい。

マツはいつも何を食べているのかと聞かれたので、春に買い込んだワカメを干したり冷凍したりして、今日は輪島産、明日は七尾産、明後日は宇出津産といった風にローテーションしてやっているのだと話すと、「それならマツに食べさせてやって」と言って、縁日の綿菓子が入っているくらいの大きなビニール袋にいっぱい入った、干しワカメの袋を渡して下さった。近所の人からの「おすそ分け」をさらに「おすそ分け」というのもよくある話。でも、たぶん巻貝たちへの「おすそ分け」は、奥能登史上、これが初ではなかろうか?

塩田の前の海で取れたというから、これはまさにマツたちが親しんで食べていたはずのワカメ。塩田辺りの海岸のワカメが店などに並ぶというのはあまり聞いたことがないから、「おすそ分け」でしか手に入らない、大変貴重なものだ。しかも、船で沖に出て取ってきたものだそうだから、海辺で拾うのよりも「グルメ」な食材とのことである。

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