マツたちの「里帰り」(2):連れていく決心を固めるまで

巻貝にだって、やっぱり体調の悪い時というのはある。私はそれを「風邪」と勝手に名づけている。人間で言えば風邪のようなものだと思うからだ。こういう時は、数日間調子が悪そうに1箇所でジーッとしている。人間だって、どんなに健康な人でも、きっと同じようなことは思い当たるはずだ。

マツは、一昨年の10月末に私のところに連れて来られてからしばらくして、ちょっとだけ「風邪」を引いたことがあった。しかし、それ以降はいたって元気で、いつも豪快な食べっぷりを見せてくれてきていた。そのマツが今年2月の半ばくらいに、久々に1~2週間ほど調子を崩した。毎朝、毎晩の点呼の際、いつも同じ場所にいて動かず、ご飯もほとんど食べず、顔すら出さないからとても心配した。このまま死んでしまったらどうしよう・・・と、最悪の事態まで頭をよぎった。

ちょうど能登に連れて行くかどうか迷っていた時期でもあったので、これでは諦めざるを得ない、と思っていた。それどころか、留守番させていくのすら心配になり、私の能登行き自体を中止にすることも覚悟しなければならなかった。能登に出かける予定の時期が近づき、塩田の親方からも「マツを連れてくればいいのに」と言われるようになり、焦った私が、

「マツ! こんな状態じゃ、能登になんか連れて行けないよ! 元気出しなさい! 塩田の親方も待ってるよ!」

と呼びかけると・・・あら不思議。マツは急にムクムクと頭を出して、必死で「元気アピール」をするのである。一度や二度ではない。何度試しても同じ反応だ。ああ、マツは里帰りしたいんだな、と私は確信した。実際その後、マツはまたよく食べるようになり、私が朝のあいさつをしようとボトルを覗くと、必ずマツがガラスに大きなお腹で張り付いて、こちらをじっと見ながら両方のツノを元気にフリフリしているということが続いた。

マツは貝殻から全身を乗り出すようにして、

「大丈夫だから。絶対、能登行くから!! ほら、元気でしょ???」

と一生懸命なのである。その姿を見て、私はマツたちを「里帰り」させる決心を固めたのだった。

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