巻貝(シタダミ)たちが、私を奥能登に結びつけてくれた。

私の中では「奥能登=シタダミ」である。

初めて奥能登を訪れたのは、今からもう15年近く前になる。当時まだ学生だった私は、既に廃止となってしまった「急行能登」という夜行列車を使って上野から金沢まで行き、そこから奥能登特急バスに乗り替えて、まるまる12時間以上かかって輪島に到達した。車の免許すら持っていない時代だったから、現地ではレンタサイクルを利用したり、本数の限られたローカルバスを時刻表とにらめっこしながらうまく活用したりして、輪島から珠洲へとつながる最も奥能登らしい外浦の海岸線の眺めを楽しみ、揚げ浜塩田での塩づくり体験もして、今もお世話になっている親方とも知り合った。

結局、奥能登と私を結びつけたものは「シタダミ」、つまり、マツたちの仲間だったのではないかという気がする。太平洋の海とはまた違う、黒く険しい奇岩が連なり、荒い波しぶきと独特の潮騒に、濃い美しいブルーをした海面。潮だまりを覗いてみるとマツたちの仲間がたくさんいたし、他にもカニやきれいな色をしたイソギンチャクがたくさんいた。当時はその名前すら知らなかったが「シタダミ」を手にとって、手のひらの上で遊ばせてみるとかわいくて、またその感触が新鮮で、実に楽しかった。海の豊かさを心から実感できたのだ。子どもじみていると思われるかもしれないが、奥能登の外浦に行って「磯遊び」を楽しまないのは、人生を半分以上損していると言っても過言ではないと本気で思う。

今振り返ってみると、塩田の親方のみならず、あれがマツたちとの出会いでもあった。まさかそのときは、こんな風にマツたちと暮らすようになるなんて思いもしなかったが。私がなぜマツたちを東京で飼うことになったのか、この話はこれからも断片的に少しずつ続くことになるだろう。

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